60キロ高性能鋼溶接試験報告

福田 充*
鈴木 亮**
澤井隆之***



1.まえがき
 現在、建築構造用として主に使用されている引張強さ490N/mm2級の鋼材では、超高層建築物や大スパン建築 物においては過大な板厚となり、加工や溶接施工上の負荷が大きくなってしまうデメリットがある。このような背景から、建築基準法には定められていない引張強さ570〜 590N/mm2級の高張力鋼材が一部の超高層建築物に使用 されてきている。他方、建築設計技術の発展に伴い、建築物の耐震性能上の信頼性を高めるために、鋼材の降伏強度のばらつきをなくし、降伏比を厳密に制御した建築構造用鋼材の要求が高まってきた。
 このようなニーズに対して、昭和63年から5か年にわたって建設省の総合技術開発プロジェクト「建設事業への新素材・新材料利用技術の開発」が実施され、その一環として、引張強さ590N/mm2級高性能鋼の研究開発が、鋼材倶楽部内に設けられ「高性能鋼利用技術小委員会」において実施された。
 以下に、このようにして開発された2種類の引張強さ 590N/mm2級の高性能鋼を使用し、溶接施工性および各 種継手性能確認試験を新日本製鐵(株)の協力を得て実施した結果を紹介する。

2.高性能鋼とは

 従来から鋼橋などに使用されている高張力鋼(例えば SM570Q材)などは、非常に硬い金属組織(マルテンサイト及びベイナイト)となっていて、降伏強さを引張強さで除した比(降伏比)が高く、引張強さの近傍まで降伏が起こらない材料であったため、低降伏比が望ましい建築構造用鋼材としては適当ではないと言われてきた。低降伏比の 鋼材が必要であるとの要望を受けて、従来の硬い金属組織の一部に柔らかい金属組織(フェライト)を混在させることで強さと粘りを合わせ持たせ、引張強さはそのままで降伏強さだけを低く抑えた厚鋼板が開発された。この厚鋼板は、さらに降伏強さ、引張強さの範囲を制限し、溶接性も改善されている。このように開発された厚鋼板が高性能鋼と呼ばれるものである。
3.高性能鋼の要求仕様(規格)

 高性能鋼にはSA440IとSA440Uの2種類が決められ、適用厚さは実用例を考慮して19mm以上100mm以下となっている。高性能鋼の機械的性質を表−1に示す。
 強度は厚さに関わらず一定であり、降伏点は一般の鋼材と異なり上降伏点の代わりに耐震設計上、下降伏点が採用されている。
 降伏点は440N/mm2以上となっているが、SA440Uについては降伏点の上限を540N/mm2に制限し、耐震性能をより高めている。
 引張強さの最小値は590N/mm2であり、従来のSM570Qに比べ20N/mm2高くなっている。
 さらに、耐震性能を考慮して、従来のSM570Qには規定されていなかった降伏比を、80%以下に制限しているのも大きな特徴である。伸びおよびシャルピー吸収エネルギーに関しては、従来のSM570Qの規格内容をほぼ踏襲した規定値となっている。
 高性能鋼の化学成分、CeqおよびPcmの規格値を表−2に示す。高性能鋼の強度は従来のSM570Qより高めに設定されているが、溶接性を左右するC<Si、Mnなどの化学成分の規定、溶接性を評価する指標であるCeqあるいはPcmの規定は、従来のSM570Qと同じになっている。
 すなはち、高性能鋼は従来のSM570Qより高強度の鋼材であるが、溶接性は従来鋼なみに改善されている鋼材といえる。
 高性能鋼は、高張力鋼であるという性格上、ボックス柱のスキンプレートなど板厚方向に応力が作用する部材として使用される頻度が多くなるので、板厚方向特性を改善する目的で、不純物元素の一つである硫黄(S)含有量がかなり低く抑えられている。

* 八千代工場製造部鉄骨製造課
** 八千代工場管理部生産管理課
***八千代工場管理部品質管理課長
サクラダ技報 No.9